「気象情報活用による農業者支援プロジェクト」ネットワークの構想

野菜栽培技術は、3つに分けられます。

1)基本技術
2)土肥技術
3)シーズン技術

の3つです。

基本技術は、種まきや間引きなど、個々の農作業のやり方で、
マニュアル化して伝達可能なものです。

土肥技術は、土づくりや肥料の与え方に関するもので
土質や野菜の生長に必要な養分、資材・肥料等についての知識を
学ぶ事を通じて習得する事ができます。

シーズン技術は、天候や季節に対応する能力を意味し、
熟練農家の「暗黙知」、「経験知」と呼ばれるものは、
この部分に集中していると思われます。

日々変化する気象条件、遷ろいゆく季節に対応しながら、
「今」どうすべきかについて、

どういう判断を下すべきなのか

初心者に説明することは難しい部分が多いのは事実です。

すなわち、シーズン技術の伝達は、
都会人が農業を志す上での障害の一つと考えられているのです。

しかし、「初心者教育」について、
全く手立てがないわけではありません。

テレビなどでお馴染みのソメイヨシノの開花予想は、
「立春からの最高気温の積算が600℃を超えると花が咲く」

等、過去の経験とその年の天候の変化・長期予報を元になされています。

気象データを用いる事で、ある程度、植物の生長は予想できるのです。

もちろん、農業を志したばかりの都会人が、
この道数十年の熟練農家と同じような判断力を持つ事は難しいでしょう。

しかし、例えば、カブをいつ種まきしていつ収穫してよいかも
分からない初心者に対して

「あなたが育てているカブは、種まきから収穫まで最高気温の
積算で1700℃ぐらい必要だ。

今はまだ種まきからの積算で600℃にしかなっていない。
カブの『玉』が太らないからと言って、心配する必要はない」

と言ってあげることができるとすれば、

自分がしているカブの栽培が
成功しているのか、失敗しているのか、
皆目見当がつかないまま悩んでいる気持ちを

かなり軽くしてあげることができるはずです。

そして、気温や降水量などのデータなら、
その人がカブを育てている畑・最寄りの気象台の
観測結果が

すべてウェブ上に公開され、

誰もが無料で自由に取得することができますし、

表計算シートを用いる事で、それらのデータから
「積算気温」のような加工結果を簡単に算出することもできます。

もちろん、同じ品種のカブを育てても、
2月に種まきをした場合には、積算気温1700℃で収穫できたものが、
4月に種まきをしたら、積算気温1500℃で収穫できるのかもしれません。

9月に種まきをしたら、2100℃になることもあるでしょう。

「マルチ」や「べたがけ」、「トンネル」等と呼ばれる
保温資材を用いるのと用いないのでは、同じ時季に種まきしても、
収穫までに要する時間は違ってくるでしょう。

場合によっては、そうした資材を用いると、
収穫を早めるどころか、

野菜の病気を誘発し、全然、収穫を得られないような状態を
引き起こすかもしれません。

また、畑が川沿いにあるのか、台地の上にあるのか、
土質が砂質がかっているのか、粘土質が優っているのかによっても
結果は違ってくるでしょう。

ですから、ある場所である時に行われたただ一度きりの
結果を一般化してしまうことはできないかもしれません。

しかし、ある品種のカブを育つまでに要する積算温度が、
時季や栽培方法、畑の立地条件によって、

時には1500℃になり、別の場合には1700℃になり、
更に別な時には2100℃になったとしても、

600℃になったり、3000℃になったりすることはありえないと思われます。

すなわち、「当たらずと言えども遠からず」と言う情報を
「何がなんだかわからず、何をどうして良いかも考えつかない」初心者に提供出来たとしたら、

それまでに比べて格段に違う判断基準を示せた事になるのです。

そして、例えば、

自分自身では野菜を育てていないけれども、気象情報には関心がある人、
気象データをダウンロードして、表計算シートで加工してみるのは面白いと思う人、

あるいは、ささやかではあるけれども、自分でも野菜を育てながら、
生育状態と気象データを比較することに興味を持つ人、

~学校の生物クラブや地学クラブ等に所属するような子供たちや
生物マニア、気象マニアと呼ばれるような人たちも含まれるのかもしれませんが、

そうした人たちが参加するネットワークが生まれ、

無数の「野菜の生育状況と気象データとの比較結果」情報が、
公開されていくとしたら、

それらの情報は、農業を志す人達を支える役割を果たすようになるでしょう。

もしも、将来、世界規模でそうしたネットワークが生まれるようになったら、
地球全体の食料問題の解決に役立つかもしれません。

そういうわけで、最初の一歩、
いや、正確に言えば、次の一歩を踏み出そうと
思います。

菜園クラブでは、これまで、野菜の栽培・生育記録を
クラウド上に残してきました。

そして、少しづつ、それらの生育記録と気象データの比較をしてきました。

2018年は、もう少し進めて、

かわぐち菜園クラブや瀰瓊際(みぬま)菜園クラブの会員、
菜園起業大学の受講生の方と一緒に、いろいろな野菜を育てて、
「生育記録をつける」

事をしたいと思います。

この実践は、どのように生育記録をつけるべきか、

具体的には葉の長さを測るには、定規とメジャーのどちらが便利なのかとか、
記録するためには、大学ノート、スケッチブック、手帳のどれがよいのか
手帳を見開きで使うべきか否か、

そもそも、野菜の生長記録として、葉の長さを測ることが妥当なのか、
それとも、もっと他の事柄を記録すべきなのか

等など、

将来のネットワークを作るための実に基礎的な、
しかし、必要不可欠な事柄についての考察を生み出すでしょう。

VALUで得られたお金もこのプロジェクトを進めるために使っていきたいと思います。

「気象情報活用による農業者支援プロジェクト」ネットワークにご注目下さい。